約束




ようやく講義が終わって放課後。
掃除当番だったレオンは教室の掃除を終えて、ぐったりしながら歩いていた。
授業が終わった後も隠れサラ親衛隊の連中にしつっこくつきまとわれていたのだ。
(お前らのせいで説教くらったの、もう忘れてんじゃないだろうな。)
ぼやきながら、レオンはサラとの待ち合わせ場所に向かう。
一緒に学校をでると、またあの連中がいろいろとうざいため、待ち合わせは校外でしていた。
偶然の弁当くらいであれだ。待ち合わせて一緒に買い物となったら何を言われるかわかったもんじゃない。
デートではなく、仕事のための買い物なのだが、仕事のことは秘密にしなければならないわけで。
つまり、他人からはデートにしか見えないわけで。
そのため、細心の注意を払って、レオンはバレないように行動していた。
待ち合わせ場所の公園に最初についたのはレオンだった。
仕方なくベンチに座りボーっとしていると、子供がこっちに走ってきた。
どうやら鬼ごっこををしているようだ。
元気だなーと眺めていると、目の前で突然、一人の子供が転んだ。
見事かつ派手に、それでいて美しく、他にどう形容のしようもないコケっぷりだった。
って、関心してる場合かっ!

「おぃ、大丈夫かっ!」

レオンはその子供に駆け寄ると、とりあえず傷を確認した。
ごく一般的な擦り傷、それほどのケガでもない。

「うし、ちょっと我慢な・・・。」

仕事上、レオンはいつでも救急セットを持っている。
泣きそうな子供に声をかけながら、傷を消毒し、キレイな布で傷口をしばる。

「これでおしまい。泣かないで、強い子だね。もう大丈夫だから。」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん!」

子供は笑顔でお礼を言って、元気にまた走って行った。
おぃおぃ、また大地にダイヴすんなよ。

「ふ〜ん、レオンって優しいんだね。」

と、突然、後ろから声が降ってきた。サラだ。
なんか怒ってるような感じがするんだが気のせいか?

「そら、目の前で小さな子供が大地にキスしてたら、助けるよ。血もでてたし。」

レオンはサラのほうを振り向いて言った。

「でも、あんなに丁寧にさ。」

いやいや。笑っているんだが、ちょっとトゲのある感じがするのも気のせいか?

「何か、怒ってませんか?」

考えてもわからないので、直接聞いてみた。

「別に。ただ、私にももぅちょっと優しくしてくれればいいのに、と思っただけ。」

言って、サラはぷぃとそっぽを向く。

「いやいや、なんか俺が優しくないみたいじゃん。冷たくしてるか?」

レオンはとりあえず、反論を試みた。
サラにはいろいろと感謝してるし、冷たくしてるつもりはないんだけどな。

「他のみんなには優しいけどさ、私にだけなんか冷たいんだもん。私のこと、キライ?」

いやいやいやいや、んな涙目で言われても。冷たくしてないって!

「そんなつもりはないんだけど・・・。例えば?」

「学校で、私のこと避けてない?」

「学校で一緒にいたら恥ずかしいし、お前の隠れ親衛隊とかいうのがうざいから。」

「一緒に帰ろうって誘っても来てくれないし。」

「さっきと同じ理由で。」

「仕事以外で、買い物とかつきあってくれないし。」

「それじゃデートじゃん。以下同文。」

「お弁当作ってあげるから、一緒に食べようって言ってるのに断るし。」

「自己生命の危機を感じたので。今日もあのあと大変だったんだ。」

「よーするに、私とは仕事以外で関わりたくないってことじゃん。冷たくない?」

じとーっと、サラが半眼でレオンの目をのぞき込む。
言われてみれば、そうかもしれない。

「確かに・・・悪い。」

「じゃ、ちゃんと優しくしてくれる?」

じーっと、視線をそらさずにサラが続ける。

「ぅ。努力する。」

「ダメ。ちゃんと約束して。」

レオンが目をそらしたので、サラがそっちに回り込みながら続ける。

「・・・、わかった。約束する。」

「・・・」

じとーっと、サラが今度は無言でレオンの目をのぞき込んだ。

「な、何?」

その視線がまだ痛くて、沈黙に耐えられずにレオンが質問する。

「具体的に、どうしてくれる? 目をそらしたらもう一度ね。」

じーっと、視線をそらさずに、サラが言った。そして、無言のプレッシャー。

「ぐ、具体的にって?」

視線をはずすこともできず、しどろもどろにレオンが聞き返す。

「気持ちだけじゃダメってこと。仕事以外でも、一緒にいてくれる?」

じとーっと、半眼のままサラが言った。

「わかった。ど、努力・・・じゃなくて、約束する。」

途中でサラの目がきつくなって、レオンはあわてて言い換えた。
それでやっと、レオンにのしかかっていたプレッシャーが消える。
はぁ。なんなんだ、いったい。

「あ、弁当箱、忘れてたろ。さんきゅーな。」

一息ついて、レオンが昼の弁当箱を返す。

「あ、ごめん。ん〜?」

弁当箱の包みを受け取り、それを見てサラがうなる。

「な、なんだよ・・・。」

何も・・・してないよな。俺は。

「いや、ちょっと。お弁当、このくらいの量で足りる?」

「うん? ああ、俺は一度に二人前は食うけど。何で?」

いったいなんなんだ。まだ何かあるのかっ!
またにらまれないかと、ドキドキしながらレオンが聞き返す。

「明日からは、一緒にお昼食べてもらおうかと思って。ちゃんとお弁当作ってくるからね。」

予想と違って、綺麗に笑ってサラが言う。
やっと、普通に笑ってくれた。
はぁ。なんとか生き残ることができ・・・って?
マテ。んなことしたらキリンその他親衛隊に殺されるっての!!

「それは、無・・・いや、俺だって一緒に食べた・・ぃ・・。いぇ、すみませんわかりましたスミマセン。」

ど、どこからでるんだその殺気は!
なんか怒気というか殺気なわけで、立派な脅迫だと思うぞ。
あ〜、どうしよぅ。

「じゃ、買い物行こっか〜。今日は仕事だけど。」

あっと言う間に殺気を霧散させて、天使のような笑顔でサラがレオンの手をひっぱる。

「はぁ。りょ〜かぃ。」

今日は、ということは。それ以外でも引き回す気か。
はぁ〜。
サラにひきづられるままにしながら、大きなため息をついてレオンは空を見上げた。
これから、やっかいなことになるなぁ・・・。
日が暮れかけた夜空に、一番星が美しく輝いていた。



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