悠久の歌




エルタニアは望んでる。
終わらない希望を 
途切れることのない幸福を
永遠の楽園を
小さな命を持つものよ
いつか、見た夢を
いつか描いた幸福を
いつか望んだ永遠を―

大地は歌う。
天は望む。
君が望む永遠。
ここは、悠久の大地。
永久のピースは揃った。
来れ、永久のかけらよ―



目覚めたのは、朝。
レオンは幼いころからの習慣で、どんなに遅く寝てもだいたい日が昇るころに起きる。
さすがに疲れていたので二度寝に移ろうとしたが、どうにも目が覚めてしまった。

「体は、疲れてるんだけどな。なんなんだ、さっきの夢は…わけわからん。」

夢に文句を言って、仕方なくレオンは起き上がる。
目覚ましに寮のまわりを軽く走り、広場の鳥たちにパン屑をやる。
帰って来て軽い朝食を取ってから、学校に行く支度。
いつも通りのパターン。ただ、少し体がだるい。

「あーそういえば、今日はサラと昼飯食わないとな。」

昨日の約束を思い出して、レオンは少し笑った。それから、ため息をついた。
興味ないようにふるまってはいるが、レオンだってサラのことが好きだ。
だから、ああ言われて嬉しかったし、本当ならいつだってサラと一緒にいたい。
でもなぁ、とレオンは思う。自分はサラには絶対につりあわない。
自分の過去を思い出すと、どうしても近寄れない。
ラディッツに拾われる前の自分は、どうしようもなかった。
生きるためにはなんでもやった。どんなことも。
サラと一緒にいられるわけがない。
彼女は、人間だ。まぶしいくらいに綺麗な人間だ。
彼女の笑顔に、どれだけの人が救われているのか。
彼女のおかげで、俺がどれほど救われたか。

「はぁ。それと、あいつらか。」

サラの隠れ親衛隊。
俺がサラと弁当なんて、しかもサラの手作り弁当なんて食べてたら、何をされるか。怖いな。

「と、こんな時間か。学校行かないとな。」

いつの間にか登校時刻だ。さて。行くかぁ…。


「あ、レオン。おっはよー。」

「ん? ああ、サラか。おはよ。」

教室に入って、昨日の疲れから眠気がでてきたころ。
机に突っ伏して寝てたレオンのところに、 サラがわざわざ隣のクラスからやってきた。

「どうかしたか?」

「うん。昨日、ラディッツ様、なんだって?」

相変わらず、サラは綺麗に笑う。
才能だけで今の力があるわけじゃないだろう。
いろいろと、苦労したんだろうに、普段は絶対にそういったそぶりは見せない。
だから、強いんだよな、とレオンはつくづく思った。

「あの弓で壊れるようなら、お前専用に合わせてつくらなきゃだめだってさ。」

とりあえず、昨日ラディッツに言われたことを、そのまま伝える。

「専用に? どういうこと?」

「もう、普通の弓じゃダメだってことだ。硬度、精度、形、全部お前に合わせて造るんだ。」

「そこまでしてもらわなくても・・・、今度は丁寧に使うよ。」

世界一の技師が自分だけのために、というのはさすがに気恥ずかしいのだろう、サラが遠慮して言う。

「いや、じいさんも意地があるんだろ。自分は世界一だって、誇りにしてるからな。」

レオンは、自分の養父の姿を思い浮かべて言った。
自分の造った弓が壊れるのは、くやしいだろう。
だからといって、世界一の技師が、客に手加減して使えなどと言えるはずがない。
あのじいさんの弓造りの腕はよく知っている。
じいさんなら、きっとサラが全力で使っても壊れない弓を造り上げる。

「ま、そんなわけで、できれば今日あたりに工場に来てくれってさ。」

「うーん、わかった。じゃあ放課後、教室で待ってて。」

サラはそう言うやいなや、じゃあね、と後ろを向いた。
そういえば、そろそろ始業ベル・・・、いや、マテ。

「教室はやめろっ、ちょっとまっ・・・おぃ。聞けぇっ!!」

「ぉぅ、話はたっぷり聞かせてもらおうじゃないか。」

教室を出て行くサラに投げかけた言葉だが、答えたのは後ろの席の人物だった。

「小声でよく聞こえなかったけど、何の話かな?」

隠れサラ親衛隊隊長(らしい)キリンだ。やっかいな奴に聞かれたな。

「いや、別にたいしたことじゃ・・・」

「じゃ、放課後にも何もないんだな?」

ぅ。最後は普通に聞かれてたか。どーしよぅ。

「それは、何かあるようでないような、それでいてあるようで・・・」

「ほほーぅ。それで、サラさんと、放課後に何をするのかな?」

く、サラのやつ、余計なところだけ声でかくしやがって。
最後まで小声で話せっての!!

「というか、サラさんとひそひそ話の時点でゆるさん!」

「うはまて、ベルが鳴るっての!」

よくわからない理屈で飛びかかって来たキリンをなんとかなだめ、やっと落ち着いた瞬間に担任が入って来た。
ギリギリセーフ。今日は朝っぱらから説教されなくて済みそうだ。
安心した瞬間に、なんだか疲れがまたでてきた。
もともとあまり寝てないのだ。体も悲鳴を上げている。
さて。一限目は講義だったよな。寝るか・・・。

「さぁ、今日は一年に一度の選考試験だ。みな、準備はいいな?」

担任の先生が言う言葉が、眠りかけたレオンの意識の中に入り込んでくる。

「この選考試験で優秀だった者は、中央武闘大会に学園の代表としてでることになる!」

担任の先生が、かつてないほどほど熱心に語っている。
選考試験に中央武闘大会ってなんだ?

「中央武闘大会で活躍できれば、ヴァイス、しいてはシャドウからのスカウトもありうる!」

ヴァイスに・・・シャドウからスカウト?

「今まで学んだものをすべて出し切って、頑張ってくれ。以上だ!」

なんなんだ、一体。聞いてないぞ。
よーするに、寝られないのか・・・?

「なぁ、キリン。なんだ、これ?」

まだよく状況が理解できないレオンは、とりあえず後ろの同僚に尋ねてみた。

「知らないのかよ! 簡単に言うと、ただの実力テストだけどな。」

何しにこの学校来てるんだ?
そういう目でじーっと見られている気もするが、あえて無視だ。

「だりぃ・・・。眠いんだけど、俺。」

「おいおい…。」

キリンがやれやれ、と言ったようすで肩をすくめる。
レオンの学校での成績は中の上程度。対して、キリンはトップクラス。
二人とも入学したときから、ずっとこの成績をキープしている。
なのに、何故かキリンに言わせると、ライバルということらしい。
サラのせいだろう・・おそらく。
負けを認めているのに、いつも勝ってるほうがライバル視をやめてくれない。

「そーだな。代表はキリンがなるだろうし、俺は適当に負けるかな〜。」

レオンは机につっぷしたまま、適当に答えた。

「何言ってるんだ、お前。勝負だよっ!」

そのレオンの肩をゆさゆさと揺らし、キリンがレオンの目をのぞき込む。
おぃおぃ、なんか燃えてるな。いい加減、ライバル視はやめて欲しいんだけど。

「いいか、この試験は、魔術師クラスも見てるんだ。」

納得。よーするに、サラが見てるわけか。それで手を抜けないわけね。

「そう、サラさんが応援してる中で俺はお前を越える!」

そして俺はっ・・・と、自分の世界にトリップした友人を見上げ、レオンはまたため息をついた。
いつも、俺に勝ってるじゃないか・・手加減してるけど・・・。
まぁ、どうせ代表になる気はない。キリンに負けても別にいい。

「とりあえず、グラウンドにでようか。」

辺りを見回して、レオンがキリンに呼びかける。もう教室には数えるほどしか生徒が残っていない。

「おう。よーし、レオン。試験はトーナメントだからな。俺と当たるまで負けるなよっ!」

「そーだな。努力する。」

我に返ったキリンに適当に返事をし、レオンは運動着に着替えてキリンと一緒にグラウンドにでた。


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