太陽の憂鬱




「追撃するよ! ベフィスクラウド!」

レオンの回し蹴りで吹っ飛んだソレに、サラが追い打ちをかける。
大地の上級魔法、ベフィスクラウド。
地面に倒れ込んだそれを、大地が完全に捕えた!
そして、泥沼と化して対象を地の底へといざなう。

「く・・・、アースレジスト!」

体が半分くらい沈んだところで、ソレがレジストをかけた。
だが、それこそがサラの狙い。
泥沼化していた大地が乾き、ソレが動きを封じられる!

「よっしゃあぁぁぁ!」

キリンが、駆けた。
剣を構え、真っすぐにソレに突っ込む。

「近衛剣術、瞬天殺!!」

ただ、ひたすらに速さを求めた突き。
避けられたら負け、反撃も次の攻撃も考えない完全一撃必殺の突きだ。
そのキリンの剣は、完全にソレを捕えた。
黒い血を吹き出して、ソレの首が宙に飛ぶ。
一瞬遅れて、力を失った体が地面にめりこんだまま倒れた。

「終わった・・・。」

サラの前だからだろう、キリンが必要以上にポーズを決めて、振り向いた。
剣を振り、ついた血を飛ばしてから鞘にかっこよく収める。

「大事にならなくてよかったね。お疲れさま。」

「そうだね。お疲れさん。」

目の前にわざわざやってきて格好をつけるキリンは無視して、サラはレオンに言った。
キリンががっくり肩を落とすのが、視界の端にちらりと見える。
少し、いじわるだったかなぁ・・・。

「キリン君も、かっこよかったよ。ご苦労様!」

まったく、あとのそれがなければ本当にかっこいいのになぁ。
と心の中でつぶやきつつ、サラは最高の笑顔でキリンのほうを振り向いた。

「と、と、当然のこと、をっ、したまででででで、ありま、す!」

目の前でサラに笑いかけられて、しかも誉められて、キリンが一気に赤面して舞い上がった。
うまく舌が回ってない上に、何故か敬礼までしている。
もっと恥ずかしいこととか、いっぱいしてると思うんだけどなぁ〜。
放送であんなこと言ったり、変にかっこつけたり・・・ねぇ?
キリンがあせって必死であーだこーだと言うのを聞き流しながら、サラは空を見上げた。
雲一つない晴天に、太陽だけがギラギラと輝いている。
お昼まで、あとちょっとかぁ。
昨日の約束を思い出して、サラはクスリと笑った。
それを勘違いして、キリンがまたあわてて何かをしゃべりだすのだが、サラにはまるで聞こえていない。
結構、哀れである。
レオン、美味しいって言ってくれるかなぁ・・・。
あ〜あ、早くお昼にならないっかなぁ〜♪

えへへっと幸せそうに笑ったサラに、いきなり衝撃が駆け抜けた。
よくわからないまま視界が反転し、地面に倒される。
反射的に受け身はとれたが、それでも逃がし切れる衝撃ではない。
ぐるぐると地面を転がり、やっとのことで止まったと思ったら、すぐに次の衝撃がやってきた。
今度は宙を舞い、華奢な体が数メートルほど吹っ飛ばされる。

「くぅっ・・・!」

それでもなんとか空中で態勢を整え、着地しながら魔力構成を一瞬で展開させて、構えた。
体のあちこちが痛むが、それは無視する。
とりあえず、動かないほどじゃない。

「うあぁぁぁああああ!」

「キリン!」

キリン君の叫び声が聞こえて、続いてレオンが叫ぶのが聞こえる。
やっと戻った視界の隅で、キリンがサラと同じように吹っ飛んでいた。
それで、レオンが、キリンに追撃をかけようとするソレに殴りかかっていた。
ソレ? えっと、どれ?
・・・、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
サラは自分の目の前で起こってることと、次に自分の目を疑った。
首のないソレが、レオンと戦っている。
も、もしかして、ゾンビ・・・? 嘘だよね?
目をこすり、しばらくぱちぱちとしてからもう一度顔を上げて見る。

「サラ、行くぞ!」

首の無いソレが、レオンに吹っ飛ばされて目の前まで飛んできた。
飛んでくるソレは、やっぱり果てしなく気持ち悪くて…

「きゃぁぁぁぁああああああ! 気持ち悪いぃぃぃぃぃぃ!」

叫んでから、サラは、体の痛みすら忘れて思いっきり息を吸い込んだ。
体中でできるかぎりの精霊達に呼びかけ、限界まで力を借りる。
そして意識を集中させ、精密で、長大な魔力構成を瞬間的に編み上げた。

「来ないでぇぇ! イフリートバーストぉぉぉぉ!!」

サラの呼びかけに答え、巨大な炎の螺旋がソレを貫いた。
炎の上級魔法、イフリートバースト。
中心温度は千度を越え、対象を跡形もなく消し飛ばす!

「うわー、これはまた盛大な火葬で・・・。」

天をも焦がしそうなほど高く舞い上がった炎の螺旋を見上げ、レオンがつぶやいた。
これでは、さすがの魑魅も消滅したことだろう。
でも、今はそんなこと関係ない!
サラは、体の痛みを完全に忘れて、レオンにつかみかかった。

「私がゾンビとかオバケとか苦手なの、知ってるくせにぃぃぃ!」

「あれはゾンビじゃないだろ!? うわ、やめろ…俺が悪かったぁぁぁ!」

「わ・ざ・と! こっちに飛ばしたでしょっ!!」

「だって魑魅だし! い、いや、あれはサラが撃墜してくれると・・・」

「問答無用ぉぉぉぉ!」

あわてて言い繕うとしたレオンを押さえ、肩をつかんで目をのぞき込む。
レオンが目をそらすので、今度は両手でその顔を押さえ込んだ。
レオンはこの態勢に弱い。すごく弱い。ひたすらに弱い。とことん弱い。
目をのぞき込んで無言でにらみつけていると、一分ともたずにギブアップすることをサラは知っていた。
だが、ちょっといつもと状況が違うことには気が付いていなかった。
いつもこの態勢に持ち込む時は、二人きり。
今は?
すぐそばにいるのは、キリンだ。

「うおらぁぁぁぁぁぁ!!」

「うおあああぁぁぁぁぁ!!」

キリンもサラと同じように吹っ飛んだはずだが、さすがは優等生。
左腕が折れてるように見えるが、全力でレオンを蹴り飛ばした。
悲鳴を上げながら、レオンが宙を舞う。

「サラさんに何をしたぁぁぁぁあああ!!」

「さっきのゾンビを、私に投げつけたの!」

地面に叩きつけられているレオンの変わりに、サラが答えた。

「私が、そういうもの苦手だって、知ってるくせにっ!」

「なんだと? ゆるさん!」

「そうだ、ゆるさない!」

「うわ、ちょっと待てお前ら! 何をす・・・うわぁぁぁ!」

サラとキリンはあっと言う間に結託すると、同時にレオンに襲いかかった。
レオンの長い長い悲鳴がようやく終わり、それとほぼ同時に、炎の螺旋がかき消える。

「うん。当然だけど、魑魅は燃え尽きたかな。」

焦げた地面と、その上に残った消し炭をみて、サラが言った。
レオンも叩きのめし、ようやく冷静になって考えをまとめてみる。
おそらく、人間と同じ外見を持っていても、根本的な造りが違うのだろう。
たとえば心臓がないとか、首は飾りだとか・・・。
だから、首がなくても動けた。うん。
もしかしたら、目も体のどこかについているのかもしれない。
でも、口がなければ魔法は使えないのかな・・・。
殴って来ないで、最上級魔法で奇襲すれば全員殺せたわけだしね。
ふとその状況を想像してしまい、あわてて頭を振る。
まぁ、どこが弱点かはわからないけど、とにかく滅すれば問題ないか。
なにやら物騒な結論に達し、サラは一人でうなずいた。
少しして、非難していた生徒や教師たちが、戻ってきた。
焦げ跡で騒ぐ生徒、ざわざわと雑談する生徒、サラやキリンを取り囲んでいろいろと質問する生徒。
騒がしい時が、日常が、戻ってきた。
みんなが笑える空間。幸せが、見える場所。
あれこれと質問する友達に適当に答えながら、昔を思い出してサラは笑った。
ずっと昔、星に願ったんだっけ。
幸せを。それから、平和を。
そのために、強くなるって。
もっともっと、幸せが欲しいな。
痛む体を押さえながら、サラは空を見上げた。
昼休みまで、あと少し



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